おまえ おまえさん 御前
他所から出雲に移り住んだ人にとって、
出雲弁は
少なからず障害となる。
多くの地域で
「オマエ」という二人称は、
ぞんざいな言葉で、
初対面の相手を
「オマエ」と呼ぶと、
とても乱暴で、
呼ばれた側にしてみれば、
「バカにされた」などと思い、
非友好的な印象を抱くに違いない。
母の知人は京都の出身で、出雲に嫁いだ方だったが、姑さんからも近所の奥さん達からも
「オマエ」、「オマエサン」と呼ばれて、何年も悔しい思いをしたのだそうだ。
言われたときのシチュエーションにもよるが、事情をよく分かっている者からすれば、
「アンタ」より少し丁寧で、親しみと優しさの籠った言葉だと思うから、
むかし、営業で外回りの仕事をしていた頃、取引先のおばあさんが
「オマエも、お茶飲んなはい」って言ってくれたときは、
〈かなり信頼されてきたなぁ〉と、嬉しかったものである。「アンタ」の方がよそよそしい。
そういえば、20年あまり前、大津の友人Mと二人で、上津の友人Sの結納をのぞき見に、
Sの婚約者の実家近くで待ち伏せしていたら、その近所の人に
「アンタやちゃ、いったいなんですかぁ」と、怒鳴られたことがある。
どうやら結納ドロボーに間違われたようだった。
夜、Sのおとうさんにその話をしたら、
「オマエやちゃ、一体なにしとぉやぁ~」とあきれ顔された。
やっぱり、「アンタ」より「オマエ」のほうが、温かい。(8月23日)