えおとこ
子供の頃、散髪してもらったら、
近所のおばあさんとかに
「あらぁ、
えおとこしてもらったねぇ」
あるいは、
「えおとこして帰ったねぇ」などと
声をかけられたものである。
「えおとこ」・・・・・・
「いい男」のことである。
散髪してすっきりとさっぱりと
清潔感を帯びた姿を
「いい男」と表現したものだった。
この「えおとこ」は古事記にも出てくる。イザナミの命がイザナギの命にかける言葉で
阿那迩夜志愛袁登古袁(あなにやし えをとこを)
つまり、「ああ、なんと好い男だこと」という場面がそれである。
いまでこそ、「良(好)い」=「いい・よい」と言っているが、元々、「え」だった。
日吉大社の「吉」も「え」、
「善し」も「愛し」も「良し」も「えし」と発音していた。
出雲弁には古語が多くあると言われるが、訛りだと思っている発音も、
実は、古代の、換言すれば、本来の発音をしているだけなんぢゃあないのかなぁ。
出雲国風土記にも、そう思わせるところがいくつかある。
例えば、「鎭仁」とあるのは、黒鯛のことでその別名「ちぬ」を表している。
また、仁多の郡の条で、仁多と名付けた理由を説いて、
… 是者爾多志枳小國在詔 故云仁多
(・・・ こは にたしきおぐになり とのりたまひき かれ にたという)
とあり、「にたし」はドロドロした状態を表し、現在その名残として、
ドロドロ酢味噌和えの「ぬた」があるという。
だから、
「仁」「爾」は、元々「ぬ」に近い発音をしてたんだ(と、自己満足しているのであった)。
仁摩町に住む知人から、仁摩町も
「むかしは、沼だったらしい」 と、聞いたことがある。
出雲弁が訛っているんじゃなくて、
今の標準語が訛っているんです、きっと。