どぶろく
若いころはビールが好きで、
日本酒は苦手だった。
20世紀末に知り合った方が
松尾神社の宮司さんとは知らず、
「私はビール党でして、・・・・」などと、
あとで思えば、大変な失言を繰り返していた。
その年の例大祭に招かれ、
10月13日、仕事が終わってから、
一畑電車に乗って訪れた神社の境内。
石段を登りきる頃には、
周囲は酒の芳香に満たされていた。
宮司さんは、今年の酒米の出来具合、
気温の管理(当時はエアコンがなく
大変だった)、
手伝った杜氏さんのことや、
酒の歴史、神社の歴史など話してくださり、
4合以上は入る漆塗り木製の椀に注いでいただいた御神酒(=どぶろく)を味わうと、
日本酒に対するイメージが、それまで抱いていたものとはガラリと変わった。(11月20日)
日本酒党へ
松尾神社のどぶろくは、
アルコール度数が19~20%。
だがそれまで飲んだ日本酒に感じていた
匂いや味のキツさはなく、
そのかわり、フルーティーな米麹の香りと、
甘味、酸味、米粒の食感も合わさって、
豊かで優しい印象を抱いた(特に、
米粒をかむとき、味わい深く感じた)。
口の中はさわやかで、
ワタシはついつい2~3合ぐらい飲ませてもらったが、
翌朝も気分良く目覚めた。
以前、宮司さんが「翌朝も気分が良くなるような、
良いお酒を飲んでください」と言われたのは、このことか、思った。(4月18日)
それから、・・・
大吟醸時代
後日、「いいお酒ってどういうものですか?」と聞くと、
松尾神社の宮司さんは
「だいたい一升瓶で1万円ぐらいの酒ならまず間違いありません」
と言われた。
その後も、お会いするたびに
「I 酒造の世界の花が10,000円でいいのを出しています」
といった情報を教えてくださるけれど、
「高い」という先入観的な意識があり、
なかなか買い求めるに至らなかった。
その日の「いいお酒」の話は、
H酒造のNKB というお酒、
「7,000円で売ってます」とのこと。
禁煙するまで、
毎月1万円ずつ
《灰と煙》
にしてきたことを考えれば、
安いものだた思って、
母の友人の酒販店で購入し、飲んでみると、たしかに旨い。
樽の匂いと、フルーツのような甘酸っぱい匂いも気に入った。
アルコール度数19度の酒を、大きめのぐい飲みに注いで、
常温で食後に楽しむようになった。
毎月1万円クラスの大吟醸を一本買っては、家族で味わう。
いろいろな造り酒屋に行くと、それぞれに1万円の酒があった。
私の大吟醸時代は3年ほど続いた。
常温で味わうと、酒屋ごとの個性が凝縮されていることに気づかされる。
フルーティな香り、樽の香り、甘口、辛口、酸味の強弱、……。
ほんの少し口に含んだだけで、いろいろな味わいがあって面白かった。
そのころに、ワタシの日本酒に対する興味が膨らんでいった。(5月23日)
続いて、…
古酒時代
「古酒」・・・専門的には “長期貯蔵酒” という。
今はもう閉店した I 酒造に300ml@1,800円の
黄金色をした(酒に興味がない人は「黄ばんだ」というのだろうが…)、
味わい深い一品があり、
古酒の魅力に取りつかれた。
これも松尾神社の宮司さんに
教えていただいたもので、
美味しかったと報告すると、
「いろいろな酒蔵が、
古酒を持っていますから、
飲み比べるのもいいですよ」
と奨められた。
それ以来、
ひと月に一度の割合で、
造り酒屋やいろいろな酒を置いている酒販店を
訪れては、気に入った、というか、気になった酒を買いあさった。
ときには、陸奥や、越後、あるいは、四国や、九州の酒も飲んでみた。
でも、平田の10年古酒、今市の10年古酒、塩冶の4年古酒、などは
やはりこの土地の風土に合うのか、格別に旨かった。いい思い出である。
今市の造り酒屋の古酒は、当時値段も手ごろで、すごく旨かった。
この蔵の特徴を失わず・・・・・伝統を守り・・・・・日本酒好きの心をくすぐる、
発酵食品独特の香りと酒の甘みが絶妙だった。
平田の造り酒屋にも、はじめは古酒を求めに行っていたが、いろいろ造っていて
古酒も旨くて蔵の歴史を感じさせるが、純米辛口の酒も食事によく合った。
松江に通ったこともあった。老舗中の老舗だった蔵が廃業されたときはショックだった。
最後の年に造られていた山廃の酒はおいしかった。
松江で酒販店を営む友人お奨めの造り酒屋は、地伝酒を復活させた名店で、
季節限定の酒は、毎年、日本酒のいろいろな顔を見せてくれるようで面白い。(8月22日)