育毛のしかた

Aさん(当時21歳)は大学生でした。

Aさんのお母さんから電話があり、

「息子が、

   『最近抜け毛が多くて、このまま禿げるんじゃないか』 

  と悩んでいますが、なにかいい方法ないでしょうか?」

とのお問い合わせ。

「お医者さんに診てもらったら、

『若ハゲだろう』、『徐々に薄くなるだろうね』

と言われたみたいです」とも。

お母さんとしては、

「そんなに気にするほどじゃないと思うのだけれど、・・・」

とおっしゃるのですが、大体こんなもので、

「最近、抜け毛が多い」と感じるのは

シャンプーの時だったり、

朝、起床時の枕だったり、

周囲の人には、共有しにくいシチュエーションで自覚するものです。

Aさんの場合も、当時、学生で、一人暮らし、

実家のお母さんに電話で相談したのだそうです。

 

「私どもとしても、実際に目で見て、

状況をお聞きしながらでないと、

なんともお力になれません」とお伝えすると、

「息子にそう伝えます」と言われましたが、

間もなく、お母さんが店にお見えになりました。

 

 

お母さん曰く、

「息子に電話して、お聞きしたことを話したら、

『とりあえず、育毛トニックか、シャンプーか、

買って送ってくれ』というもので、・・・」とのこと。

お母さんと、30分ぐらいお話をして、とりあえず、

シャンプーを変えてみることをお勧めいたしました。

でも、何が原因かはわからないから、

よかったらご本人さんが、帰省されたら、

お店に寄ってもらってください、と言いました。

 

二週間後、Aさんのお母さんがご来店になり、

「前回購入したシャンプーを息子に送ったところ、

脱毛が減ったようです。」とご報告いただきましたが、

これも、あくまでご本人の主観であり、

実際のところどうなのかはわかりませんよ、と言いました。

Aさんは冬休みに帰省されるので、

そのとき必ず観てほしいから予約しておくように頼まれたそうです。

 

また、あわせて育毛トニックも頼まれたそうですが、

「育毛トニックも数種類あるので、

ご本人様がご来店になられたとき、

どれがいいか判断させてください。」と言ってもらうことにしました。

 

冬休みに入るとすぐ、Aさんご本人がご来店になり、

散髪もしてほしいとのことでしたので、

施術の時間を利用して、じっくりと観察させてもらうことができました。

抜け毛が止まっている様子でしたので、

以前の髪の量を知らない私としては、

①いわゆる、円形脱毛などの劇的な神経性脱毛ではないこと、

②フケや、皮脂が特別多いわけではないこと、

③現在、髪の量が多いわけではないが、異常なほど少なくもないこと、

など、お伝えし、あとは、Aさんとの話の中で、

ヒントとなるキーワードを探しながら、

どういうスタンスで、どういう風に育毛すればよいか、

一緒に考えるようなつもりで、会話に集中しました。

 

Aさんは、はじめのうちは恥ずかしそうにしていらっしゃいましたが、

徐々に話し始められ、

大学での勉強の悩み、就職、将来の悩みなど、

とめどなくお話になりました。

話をお聞きしながら、過去に何人もあった、ケースを思い出していました。

そのうち、私の甥が大学受験に失敗して

浪人生活中に脱毛が増えたときのことを例にとって

私が推測する脱毛の原因について、お話しし始めました。

 

Aさんの場合、私の見立てでは、

不規則な生活と、精神的なストレスによって、

一時的に脱毛が増えている状態。

先にお話ししたとおり、

劇的な神経性脱毛と思われる症状ではないけれど

精神的なストレス+不規則な生活の蓄積

 →自律神経の失調

 →頭皮にも血行阻害が起こる

 →脱毛

という流れになっていると推測しました。

また、フケ、皮脂の漏出が目立って多くないように思えるので

いわゆる男性型の薄毛原因が主な原因ではないと判断したのですが、

もちろん男性である限り、

男性型の薄毛の原因を避けて通るわけにはいかないことは、

前提条件的に覚えておかなくてはなりません。

どういうことかと言えば、今の状況が違う原因であっても、

男性型の薄毛の引き金がひかれれば、

なかなか育毛効果も上がらなくなる恐れがあるということです。

育毛とは、脱毛を防ぐこと、毛を太くすることですが、

男性型の薄毛は、毛が生え変わるのに伴って、

毛が徐々に細くなっていくサイクルに陥ってしまい、

そこから抜け出すのがとても難しくなるため、

育毛の邪魔をするからです。

 

私の甥の場合と全く同じというわけではないけれども、

頭皮に透明感はあるのだけれど張りがない

全体的に薄くなった(=本人の感覚)、

生活のリズムが変化している、など状況が重なります。

インターネットで検索すれば、

いろいろな情報が手に入れられる時代ですから、

自分で調べてこれだと思ったシャンプーや

手入れの方法を試している点も同じでした。

「ノンシリコンがいいと書いてあった」とか、

「朝シャンは良くない」とか、

「T製薬の育毛トニックがいい」とか、

たくさんの情報を目にしては試してみる、

といった具合に、本人にしてみれば気になることですから、

わからないでもありませんが、いろいろな情報が交錯して、

これではいったい何に取り組んでいるのか、

どれが効いたのか、どれが効かなかったのかもわからなくなるので、

お金と時間の無駄になってしまいます。

 

気にするなと言っても無理なことです。

ですから、しっかりと気にしましょう。

Aさんには、そう言いました。

今、同じような悩みがある方にもお伝えしたいことです

育毛は、まず、気にすることが大事だと思います。

ただ、必要以上に悲観するのはやめましょう。

どういうことかというと、

できるだけ現状をしっかり把握することが大事で、

そこのところを過大評価しても、過小評価になっても、

適切な育毛対策に臨めないということです。

 

 

まずは、基本的なことをやってみて、それを覚えること

甥に教えたのと同様のことを、Aさんにもお話ししました。

薄毛が気なるお客様は、何となく自分でもわかっておられるのか、

あるいは、ネット検索などでお知りになったのか、よく、

「シャンプーはなにを使えばいいのかな?」とお聞きになります。

全く的を射た質問だと思います。シャンプー剤が悪かったら困ります。

でも、答え方が難しくて、

当店で販売しているものを勧めればいいのでしょうが、

お客様が高いお金を出して購入されたシャンプーを

否定するのも気が引けて、いつも一緒な言い回しをしています。

「悪くないシャンプーを適量使って、シャンプー後よくすすいで、」と。

「すすいだ後、頭皮や髪に何も残らない、泡切れがよくて、

泡切れに要する時間がなるべく短いシャンプー

よいシャンプーだと思います。」と、お話しします。

 

お客様からは、

「じゃあ、私が今使っているシャンプーはいいシャンプーですか?」

と質問されます。

私は、いま市場に出回っているシャンプーを

全部把握することもできないですし、

使ってみないと確実なことも言えませんから、

シャンプーの商品名を言われても、わからないですので、

使った後の感触を一般論としてお話しします。

 

シャンプー後の感触として気になるもの・ことを考えてみてください。

いま、ここに掲げるものは決して難しい専門的なことでなく、

落ち着いて考えれば、当たり前のことだと気づかれるはずです。

たとえば、洗い上がりの感触がしっとりしたかんじがする、

あるいは、洗った後、いい匂いがする、

あるいは、洗った後、髪がつるつるしてくしどおりがよくなる、

といったことを、不思議に思ってみましょう。

洗う前と極端に違う感触がある場合は、特に、

髪や頭皮になんらかの物質・配合成分が残留していると

私たちは考えています。

他にも気になるシャンプー後の感触があるでしょうから、

自分の感覚を頼りに、よく考えてみてください。

 

 

このことは、「リンス」についても当てはまるかもしれません。

育毛に関して相談に来られたお客様が

シャンプーについて質問された後によく聞かれるのが、

「じゃあ、リンスはなにを使ったらいいの?」

という質問です。

でも、私たちは、シャンプーと同じように、育毛に関して言えば、

「頭皮や髪の毛に何も残らない」のがいいと思います。

辞書で調べるとリンス(rinse)の意味は、

「すすぐ, ゆすぐ」

とあります(新クラウン英和辞典:㈱三省堂)。

いぜん、私が得た知識によれば(本だったのか講習会だったのか)、

元々、髪を洗うのには、石鹸系の洗剤を使っていました。

身近にある洗剤が、石鹸しかなかったから、

石鹸で髪を洗うしかなかったのでしょう。

銭湯や、温泉施設などに行って、シャンプーを忘れて、

石鹸で髪を洗ったことのある方も50歳代から上の方には

少なくないと思うのですが、洗い上がりの髪の手触りが、

ガサガサしたような感触です。

私にも、銭湯へ行ったときに経験があるのですが、

当時、無知な私は、

石鹸は洗浄力が強いから髪の脂っ気がなくなって、

ガサガサになってしまった」のだと思っていました。

でも、本当は、

水の中に含まれる、金属成分と石鹸の成分が結びついて、

金属石鹸なるものを生じていたのです。

この反応を鹸化と言います。

そして、金属石鹸とは石鹸かすのことなのです。

この石鹸かすが髪に付着してしまうから、

ガサガサした手触りが生じていたのです。

身近に石鹸系の洗剤しかなかったころ、

石鹸かすを除去するために行われるようになったのが、

酸リンスです。

金属石鹸を酸の力ですすぎ流そうという考えが生まれたのです。

 

 

酸リンスの目的も、頭皮や髪の毛に何も残さないためです。

その先にある育毛という視点はちがいますが、

洗い流すことで髪を大切にしてきたわけです。

辞書で「リンス」の意味を知った時、

少し疑問を感じました。

すすぐためのリンスであるはずなのに、

リンスをした後、フルーツの香りがしたり、

髪がしっとりした手触りに変わったり、

手もツルツルしたり、

ある商品には、「しっとり成分」と謳ってあるものまであることには、

今でも目にすると、違和感を覚えます。

リンスは、残留物を洗い流すためのものであるべきで、

しっとり成分は保湿剤として、

フルーツの香りは香料として、

別に補えばいいと思うのです。

 

当店で40年来扱っている商品でも、

アルカリ性のシャンプーもあります。

実際にそれでシャンプーした後、

使用している水質などにより、

髪の手触りが、ガサガサしているときがありますが、

そのシャンプーには、コンディショナーが用意されていて、

コンディショナーを使うと、

石鹸かすが取れたような手触りに変わります。

そして、匂いも残らず、ヌルヌルした感触もありません。

このメーカーのこの商品も、

「シャンプー後に何も残さない」というコンセプトで作られています。

(最近、顧客の要望により、しっとりタイプ・さっぱりタイプが登場)

当店では、シャンプーを選ぶとき、

洗髪後の手触り、匂い、泡切れの良さ、などを目安に、

6か月以上、自分たちで実際に使用してみて、

手荒れしないか、頭がかゆくないか、手を洗う時にも使って、

評価してまいります。(ダメな製品は数回使えばわかります)

 

 

さて、Aさんにおすすめしたシャンプーは、

メーカーに後継者がなく廃業されて、

現在はないのですが、弱酸性の高級アルコール系の洗剤でした。

当店も、メーカー廃業後3年間は、シャンプー探しが大変でした。

ようやく見つけた納得いく製品は、

植物由来のアルカリ性シャンプーでした。

 

 

私たち「フセ」のスタッフの場合、

以前使っていたシャンプーがとてもよかったものだから、

液性にこだわりすぎていたため、

3年かかってようやく、

これは、と思えるシャンプーに巡り合ったのですが、

とにかく、洗い上がりの感覚を重視すれば、

みなさんきっと私たちがよいと思うシャンプーに出会います。

育毛、頭皮の健康を考えるなら、

シャンプー選びは、基本的に最も大切になってきます。

 

 

Aさんは、大学卒業後もたまに顔を見せに来てくださいますが、

その後は、極端な脱毛もなく、

「あのころは、ハゲてしまうのかと、悩みに悩みました。

自分では、シャンプーを変えたのが一番、それと、

育毛トニックでマッサージしたのもよかったと思ってます。」

と、いつも言っておられます。

当時はよっぽど脱毛がひどかったのだろうと、想像します。

 

2017.3.29

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