四里四方(Izumo Dialect)

出雲弁のこと

「ふ」

あれもこれも「ふ」

 

 

 方言なんて

どこでもそうなんだろうとは思うが、

ひとくくりに出雲弁と言っても、

地域により、

微妙に、或いは大きく違いがある。

 

中学校に入学して、

他の小学校から来た人の使う言葉に抱いた違和感を今も覚えている。

方言は生活しているコミュニティーで育まれるものだから、

「馴れ」の部分によるものが大きいとは思うが、それにしても、

出雲弁の地域差は確かにあり、そのために生ずるアクシデントも少なからず、・・・

         「いとおかし」である。

 

「ふ」のこと

 以前勤めていた職場は、本店が石見だったので、

出雲市内の支店でも同僚は石見の人が圧倒的に多かった。

 ある日の昼食休憩の時間のこと。

昼食休憩は11:30~13:30の間に前半後半交替でとっていたため、

営業室には人数も少なかった。出雲人は営業から帰ってきた私だけで、

午前中の集計をしていた。その時、一番遠くの窓口で緊張が走った。

見ると、二人の先輩職員(男)が、椅子から立ち上がって、「平身低頭」

お客さんにお伺いをたてていた。その様子を平仮名で記してみる。

お客さんは平田市(当時)の方だった。

客   ;「かしぇてぇ」

先輩  ;「はいっ?」

客   ;「もっちょらんかね」

先輩  ;「はっ?」

客   ;「

先輩  ;「・・・・・」

客   ;「ここわけむりださいすがおられんかねぇ」

 この辺でワタシが登場し、ライターを貸せてさしあげて、その場の緊迫感が解けた。

そのお客さんは、タバコに火がつくと、

わーわわ ちょっこちょっこくよさなえけんだけんねぇ ハハハァ」と笑顔で帰って行った。

なんだかうつろな先輩たちには

「『私はチェーンスモーカーです』と言っておられた」と教えておいた。

ときに、「火(ひ)」を必ず「」と発音する人がいて、丁寧に言うようにうながすと

をかしぇてごしなさい。」となることを付け加えた。

せんぱいたちは、「は、なんのことだら、わからだったでなぁ」と

大田の言葉で振り返っていた。               (3/4)

 

 「す」、「か」、「わ」のこと

50音のうちの1音を重ねて、口語になる出雲弁と言えば、

」に思い当たる。

ツールっプ

つーるっぷ 咲いた

すす」はだったり、

太神楽の獅子だったりする。

煙突のももちろんである。

すすす」は訛りを除けば、「ししす」。

脱穀後の稲などの藁を積み上げたものが、

しし」の「」に見えるからだと聞いたことがある。

ここでいう「しし」はシカ、イノシシなどの獣を表す古語。

 「」も子供のころ遊ばせてもらった。

かか?」は「食べようか?」、

かーか?」は「買うか?

かかか?」は「書こうか?」「掻こうか?

かかかーか?」は機械などを前にして、「これは動くか?」てな具合だったね。

 「」はワタシのイチ押し。

中学校の時、部活動で先生に「わわー」(お前ってやつはー!)って、よく叱られたものだ。

以前、出雲の飲食店で出会ったアメリカ人男性がカラオケで≪マイウェイ≫を歌って、

「この歌は、ワタシはワタシ、他人は他人、他人の言うことに惑わされるな。

そして、他人を尊重しなければいけないことを考えさせてくれます。

日本語では自立心という言葉があります。わかりますか?」と、なんとなく上から目線。

そこでワタシは、

大和ことばでは『わーわわわーわ、わわわ』と言います。わかりますか?」

                             と、やさしく教えてあげた。

 出雲人の自立を促す言葉

      「わーわわわーわ、わわわ」

        を座右の銘に、おひとついかがですか。(4月18日)

 

 た行で会話

一音で話すのと似て非なる経験をしたことがある。

 以前、営業で、担当した精肉店を訪問した時のこと。

そこは家族経営で、訪問するたびに、ご主人と奥さん(当時70歳近くだったか)と、

その息子さん(当時40歳代か)とお茶を飲みながら世間話をするのが、常となっていた。

 ある冬の日、それは起こった。その日、ご主人と奥さんとワタシ、3人でお茶を飲んでいると、

外出先から息子さんが帰ってきた。

 息子さんは、挨拶もそこそこに、いそいそと奥の作業場へと入って行った。

奥へ通じる通路と、私たちがお茶している入ってすぐの土間(コンクリートを張った事務所兼用の

スペース)との境には硝子戸があった。気ぜわしいからか、その硝子戸もきちんと締めず、

10センチばかり開いたままにして、ずんずんと奥へ向かう息子さんにご主人が一言、

「つつととたてて!」

自分に文句を言われているのがわかった息子さんが奥から一言、

「なんだてて?」

奥さんが中継するように一言、

「つつととたててと」

今頃言ってももう遅いというように息子さんが一言、

「つつととたてててていったてて」

私なりに注釈を付けると、

「つつととたてて」『つつと』は、

〈さっさと〉とか、〈きちんと〉〈速やかに〉といった言葉を表す

オノマトペに接尾語〔と〕がくっついたものである。

次の『と』〔戸〕で、

牡丹

牡丹も咲いた

 

それにつづく『たてて』は、

戸などをしめる・

閉ざす、という意味の古語〔たつ〕

接続助詞〔て〕がくっついたもので、

全体で、

「速やかにきっちりと戸を閉めろよ」

ということになるだろうか。

「・・・てていったてて」『てて』は、

〈といって〉という意味。

古語・格助詞〔とて〕の転か。

〈・・・といって、言ったといって〉となるか。

意訳すれば、

「速やかにとしめろと言ったところで、(いまさらもう遅い)」

ということになる。

方言の切れ味鋭いところを見せつけた言葉であった。(5月18日)

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